何かを守るために
奪っている
伝えたいことがあった。それはもう、数えきれぬほどに。
私の目指した銀色は、いつでも光っていた。
それは淡く儚く、時に力強く。
いつだって憧れだった。
私の前を走りゆく、憧れだった。
刀の柄にそっと指を乗せた。
固くて、冷たいそれに何度も嫌けがさした。
何度も涙を流した。
どうして私はこんなことを、そう思った。
いつか、戦争は終わるだろう。そんなことは、みんなわかっていた。
こんな希望にも似た思いを抱きながら、戦い続けてきたのだから。
私は知っていた。自分が進むのは、いつだって暗闇なのだ。
前も後ろも、右も左も暗闇だった。何処へいけばいいかは、誰も教えてくれない。
大切な物は、いくつもあった。
守りたいものだって、数えきれぬほど。
それを守りきる、そんな自信はなかった。
振り返れば、何一つ守れなかった、そんな気がする。
守るときには、いつだって、何かを奪ってきたから。
たとえそれが敵のものであろうと、何かを、誰かの大切な何かを奪ってきたことに変わりはないのだから。
もしかしたら大切でないものだったのかもしれないけれど。
迷ってる暇はない、その背中は私にそう告げているようだった。
私の目指す銀色は、逞しく、強かった。
「余計なことだなんて言わねェよ」
戦場へ行っても、ごちゃごちゃと考え事をしては怪我を負う私を見て
ヅラや晋助を筆頭にみんなが私を責めた。
みんなが、余計なことを考えるなと言った。
言われる度に、ごめんと謝ってきた。
そして一通り怒られてから、私は銀時に呼ばれた。
着いていけば、言われたのがそれだ。
あの時の想いを、どうやって表そうか。
嬉しかった。哀しかった。泣きたかった。笑いたかった。
とにかく色んな感情がごちゃ混ぜになって、私は思わず抱きついた。
それ以外に、このありがとうに近くも遠い思いを伝える術がなかった。
「怪我はしてほしくねェけど、生きてりゃそれでいい」
「・・・うん」
「生きてりゃ、何度でも前に進めらァ」
泣き出しそうな私を優しく受けとめた銀時は、ぽんぽんと私の背中を叩いた。
それにまた何とも言えぬ思いを抱いた私は、抱きしめる力をぎゅうっと強めた。
「俺は誰のためでもねェ、、お前の笑顔のためだけに守る」
「・・・ありがとう」
「そのためには、何を奪おうが知ったこっちゃねェ」
「ッ、」
銀時の強さは、これなのだと知れたような気がした。
それは私なのだと、そんな自惚れを抜かす気はなかったが、あながち間違ってないような気もする。
私のために、私の笑顔のためだけに護り、奪うと言った。
ならば私にできることは、同じように護り、奪うことに、涙を零さない事じゃないか。
泣いてる暇はないんだ。
「・・・じゃあ、さ」
「ん?」
「私が、いなくなったらどうする?」
「・・・さァな」
もしも話は聞き飽きたさ、そう言って彼は私を抱きしめるのをやめて、頭をがしがしと掻いた。
今までの温もりはだんだんと消え、その感覚にまた涙が出そうな、そんな気がした。
私が居なくなったら、彼はどうするんだろう。
私の笑顔を守るために奪うといった彼は、一体何を守っていくんだろう。
「私、」
「おう」
「強くなる」
「・・・おう」
私がなくならないように、私という存在が、この世から消えぬように、
銀時の守るものが無くならないように、銀時と居るために、
私は強くならなきゃ。
泣いてる暇は、ないんだ。
笑わなくちゃ。
「・・・俺ァよ、」
「・・・うん?」
「そのまんまの、が好きだよ」
強くならなきゃ、泣くな、笑え、そう俯きがちになっていた私は、
銀時の言葉に大きな音を立てる勢いで顔を上げた。
彼を見れば、私の方は向いていなかったが、背中を向けているわけでもなく、
どこか遠くの、たとえば、そう、月、を見つめているような、そんな気がした。
「優しいが、好きだ。
笑うが、好きだ。
でも、泣いてるも好きだ。
傷だらけでも、が好きだ。」
ゆっくりと、だけど息をつく間も与えないような、そんな喋りで堂々と告白をした彼を、
銀時を見つめた。ゆっくりと、振り向いた。
「強くても弱くても、泣いてても笑ってても、俺はが好きだよ」