といき

寒い寒い朝だ。立冬を過ぎて息が白く吐き出される季節になった。 ぶるりと身震い一つ、自分で自分を抱きながらまだ仄暗い朝のかぶき町を歩く。 道端には酔いつぶれたおじさんがいびきをかいて寝ている。 風邪引くだろうな、そう思うだけで通り過ぎた。 東の空をちらりとみるとどうやら朝焼けのようだった。 立ち止まって見上げた空には、紫のような赤のような、言葉では言い尽くせないような綺麗な色が広がっている。 ぼうっと立ち尽くしていた体に、朝の冷たい風が当たった。 きゅうっと肩を竦めて、さらされた首元をしまうようにして歩き始める。 マフラーしてくればよかった、と後悔してももう遅い。 歩いてたらあったかくなるだろう、はあ、とまた息を吐く。 白く現れた息はすぐに消えた。 こつん、かつん、かたいブーツの音が響いて、それは自分のものではないとわかって。 寒いからブーツでくれば良かったな、とまた後悔しているうちに、視界に人影が入った。 家々の隙間から零れるだけの朝日では頼りないそれしかできないらしい。 木枯らしでも吹けば消えてしまいそうだ。 はあ、と氷のように冷たくなった両手に息を吐きかけた。 手袋はごわごわして苦手だからつけない。 もっと肌触りのいいものがでたらいいのに、そう思ってまた息をかけると、頭を撫ぜられる感覚。 冷てェ、と小さく聞こえた。 寒いね、同じく小さく呟くと、ぐしゃりと髪を撫ぜてくれた暖かい手は、冷え切った手を掴んでくれた。 二人になって歩きながら、その温もりをじわじわと共有し終わると、ぐいっと手を引っ張られた。 見上げた隣の人は長いマフラーを巻いてあったかそうなものを羽織っている。 別にそんなつもりはなかったのに、こちらをみた彼はため息を吐いて、 のろのろとその長いマフラーの端を分け合うように巻いてくれた。 ありがとう、そう言う間もなく、今度は手に、はあ、と温もり。 こっちはこれで我慢しろ、 手袋よりずっと肌に優しい温もりに何も言えず、ただ白い息を吐いた。