びゃくや

それはさぞかし綺麗なのでしょうね、透き通るような声が耳を掠めると、まるで自分が綺麗な人間になった気分に浸れた。 遠く離れたひどく寒い土地では、太陽光が散乱して薄明を呈するのだそうだ。 テレビのワイドショーで取り上げられたそれは異星のものであったが、コメンテーターはこぞってうっとりとモニターに見入っていた。 ほのかに明るく天空が染まっている様は、情趣など解さないと自覚している身にも美しいものだとわかった。 ふと浮かんだのは彼女の姿であった。 なるほどオーロラではないだろう、このくらいのほの明るさこそが、儚くて消えてしまいそうなアイツによく合う。 そのものであるようにさえ思える。

幼い頃からここにいたのですと彼女がゆるり口元を緩めたのはいつのことだったか。 ここに通ってからもうどれくらいの月日が経つかわからない、他の女はもちろん太陽の日を浴びに動き回り、 元トップであった太陽そのものの彼女や月を背負う女でさえ、外にでたらどうだいと声を掛けるというのに。 静かに笑い、ただ自分が消えるときを待つだけの時間を過ごしているかのような彼女は決して日の下を歩かなかった。 日焼けでも気にしてるのかと問うと、なるほどあのお天道様は私の身を焼いてしまうのですねとまた、微笑んだ。 自分がこの地に太陽をもたらしたと言われてはいるが、本当にそれを見て欲しい相手はのらりくらりとかわして、 様をつけたそれにただ一瞥をくれたぐらいだ。別にどうしても見て欲しいというわけじゃア、ない。 ただ頑なに避け続ける理由が気になってしまったのだ。

なァ、嬉しかったか。最低な質問だとすぐに後悔した。 それでも彼女は口元に今までで一番綺麗な弧を描いて、今までで一番美しい声で答えてみせた。


「私には身に余るほどのお天道様がございます。 それは私の肌を焼きもせず、夜になって沈んでしまうこともなく、ただ私の隣で眩しく輝いておいでなのです」