さきゅう
冬の砂丘はオフシーズンで空いているとか。ぽつりと立って見るとあたりにはなんの目印もないもんだから、
世界で自分一人取り残された気分に浸れるのかもしれない。
頻繁に吹く冷たい風が舞わせた砂はなにとも取れない形を見せる。
たとえば人のように見えたとしたら、もしそれがこの胸のつっかかりの原因である人物によく似ていたとしたら。
たとえ砂であっても焦がれるように手をのばすだろうか、そうしてただ砂だけをつかんで、
口に入ったそれをツバと共に吐き捨てるだろうか。
甘ったるいのは嫌いなんだ、そう言うと、そうか、とだけ返した。
甘いものが大好きな彼にはいささか暴言が過ぎただろうか。
それでも事実だ、甘いものはまだいいとしたって、どうしても甘すぎるものは苦手だし気持ちが悪くなる。
実に甘っ"たるい"という言葉そのものじゃないか。そんな人間には、なりたくなかったんだよ。
あなたの隣に立つにはそんな人間じゃアだめだと思ったんだよ、なにも食べ物の話をしたわけじゃないんだ、
あなたなら嫌というほどわかってしまったんだろうね。
「俺ァ甘ったるいもんもクセがあって好きだけど」
そうか、それだけで終わってくれて良かったのに。
こんな地の果てみたいなところまできてくれなくて良かった、
せめて世界で自分一人取り残されただなんて気分を味あわせてくれればいいのに。きっと、悲壮感たっぷりに笑ってみせるから。
冷たい風に運ばれた砂が舞う。
人によく似た形の、それも特別な人の、姿を一瞥して目を閉じた。
そっか、とだけ返すつもりだったのに。
「目潤んでんぞ」
「砂が入ったの」
ツバと共に吐き出した砂は舞う砂に埋れて消えた。