くおん
最初で最後だ。そんな言葉をずっと頭に巡らせたまま、唇を重ねる。
こんな関係も今日でおしまいなんだ。こんなこと何回思っただろう。
昨日も、一昨日も、その前も、変わらず会ったし変わらず触れた。
ただ静かな空間に決して心地よくはない音が響いて、目を閉じたままで、ずっとこのまま、を望む。
首に回した手の感覚がなくなってきた頃、ようやく息をするため少し離れた。
今はもういいかな、なんて心の中でひっそり呟いて、あたたかい胸の中に崩れ落ちる。
背中に回された腕もあたたかくて、ぬくもりにつつまれてうとうと眠たくなって。
ねぇ、もう少し出会いが普通だったなら。もう少しだけ出会うのが遅かったなら、
街を歩くあのカップルみたいになれたのかな。仲良く手を繋いで、買い物に行って、散歩をして、
なんて夢みたいなこと。
ひとつでも歯車がずれていたなら、笑いあうことができたのかな。言葉を交わしてふれあえたのかな。
ねぇ、ねぇ。こんな思いは伝えられるわけもなくて、ただただ呼びかける。
そのたび無言で背中をとんとんとたたかれて、無性に、悔しいけれど泣きそうになった。
ぎゅっと着物を掴む力を強めると、背中に回された腕の力も強くなって、また、涙。
着物を離して、無理に手を伸ばして、ふわふわ柔らかい銀髪を掴んでやった。
額と額がくっついたまま、鼻が触れたままの距離で、少し目が大きくなったのがわかった。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ口元を緩んだ。やっと笑ったな、聞き逃してしまいそうなほど、
今にもその主が消えてしまいそうなほど、小さな声。
どちらかがくいっと着物を引っ張ればそれが合図。また長い長い、深い深い、ふれあいの時間が始まる。