いぞん

よりかかりきって倒してしまえたらいっそ楽になるんだろうか。 中途半端に頼ったり逃げたりを繰り返して潰してしまうのだけを頑なに拒み、 そのくせいつか潰してしまうという可能性、恐怖、未来、が、いつまでもつきまとう。 組み敷いて見下ろす先の人は酷いもので優しい瞳をしている。 優しい、と私が形容するたび彼は少し眉根を寄せる。気に食わないらしい。 一度だけしつこく問いつめたことがある。 そんな綺麗なもんじゃねえとぎゅうと眉間にシワを寄せたまま、ため息を吐いてこたえた。 私からすれば十二分にキレイだ。 キレイで、優しくて、柔らかな、あたたかな、きっと何もかも包んでしまうんだろう人だと思った。 お前は美化しすぎだとも言われたがそんなことはないと思う。 現にこうして上に乗っかった私の手が首にかかっていても彼はなにも言わない。 私の非力で締め上げられるはずがないと思っているのではないんだろう。 私を信じて、とも少し違う。いつものことだと高を括っている、といえばいいか。 優しすぎるあたたかすぎると反吐でも吐いたら今度こそ引かれるだろうか。 彼は私のすべてを知っていて、私は彼のすべてを知っている。つもりだ。 少なくとも私は、わかってくれているという思い込みに依存しきって生きている。 こんなことをしても、あんなことをしても、最後にはどんなことをしたって彼は、ここにいる。 私の手の中にその首を収めさせてくれる。優しい瞳で見上げて、ゆっくり私の名前を紡ぐ。 掠れた声が耳に届くのとほぼ同時に、手が伸びてきて私の頭に触れた。 見下ろす先の顔にはなぜだか水滴が落ちている。私がこうやって彼を見下ろすときはいつもそうだ。 その水滴の生まれたところをいつも教えてもらえないけれど、この人はわかっているだろうから大丈夫だと、 私はそうそれこそ信じて、いる。いつか、いつかこの手を許してくれなくなる日の存在を頭の片隅においたまま、 この人を見下ろすけれど。それのいつだって呼吸が少し苦しくなって、視界がにじむのはどうしてなんだろう、ね。