けんお
どうしようもなく、すべてが嫌になる。
お皿洗わなきゃだとか、洗濯物たたまなくちゃ、掃除しなきゃ、だとか、
たいしたことのないことすべてを投げ捨ててしまいたい。
挙句、動きたくない、呼吸することさえも面倒だ、いやだと思えてくる。
人間としての本能に従いたくなくなってしまうとは何事か、と誰に問うこともできないわけで。
結局は、投げ捨ててしまえたならいいのに、と思いながら、やることの山に飛び込んでいくのだ。
あぁ、もう、やだ。
太陽のにおいをたっぷり含んだ洗濯物の山に顔を突っ込んだ。
もういやだ、このまま埋もれてしまえたならどんなにいいだろう。
こんなお日様のぬくもりで包まれたなら、どんなに、どんなにしあわせだろう。
太陽のにおいをかきわけて、嗅ぎ慣れたにおいにたどり着いた頃には
首根っこを掴まれて天国から連れ戻された。
なにをするの、と睨んでやろうと思っても身動きが取れない。
後ろからがっしり、太陽のにおいをかきわけて届いたあのにおいと同じそれが、抱きしめてきたから。
「遺憾の意を、表します」
「なァに言ってんの、お前」
「だって、こっちの方がずっと現実」
(洗濯物は裏切らない)(あなたの温もりは消えてしまう)(そんなの、そんなの嫌よ)