ひみつ

言葉だけで満足できるような関係だったら、それだけの人間だったらもう少し楽だったろうか。 思いをまっすぐに伝えてくれたものを、私はありがとうと受け取りながら心の底で嘘つきとつぶやく。 親に構ってもらえない子供みたいに、唇を突き出して、ちいさく、ギリギリ聞こえないくらいの音量で。 嬉しいよ、なんて笑いながら、この人はいつ私の前から消えてしまうのかを計算する。 今はまだ目を見て言ってくれるけれどそのうち右斜め上を見ながら喋るようになる。 そのときはじめて、私は、嘘つき、と口に出して言えるんだろう。 名前を呼ぶ声も、大切なものにするみたいに優しく触れるのも、 きゅっと眉根を寄せて目を細めるくせにその目が柔らかいのも、全部全部、今だけ、なんだ。 嘘つき、嘘つき。君はいつか消えてしまうんでしょ。今私に言うこと全部、過去にして、いなくなるんでしょ。 本当だとか、永遠だとか約束だとか、そんなもの言われたことないけど、 それはいつか来る日を私よりも先に計算できてるからなのかな。 別れの日から逆算。私たちの利害が合わなくなる日だろうか、価値観の相違だろうか、日々のすれ違いだろうか。 それらしいものをテレビから拾ってもどれも当てはまりそうになかった。 だって、そんなものはそもそもなかったから。利害で動いてるようで本当はバカみたいに情で動く。 価値観の相違しか見当たらないし、すれ違うほどお互い忙しくもない。 それなら君が私の前から消えてしまうのはなぜなんだろう。 考えてわかることじゃないのに止まらなくて、涙も、止まらなくなった。 漫画みたいにぽろぽろ落ちてるうちはいいけれど、君が、銀さんが帰ってくる頃にはきっと鼻水が出てる。 一瞬ギョッとした顔でそれを見て、それで、ひでェ顔、って笑ってティッシュをくれる。 受け取らないでいると、小さい子にするみたいにそれをわたしの鼻にあてて、無理やりかませるんだ。 背中をさすって、頭を撫でて、なにも言わないでぬくもりを分けてくれるんだ。 どうした、って聞くのがいつもわたしが話したくなった頃なのは、触れたいと思った時なのは、きっと偶然じゃない。 そういう、なんでも見透かしてるみたいなとこが、嫌なんだよ。 八つ当たりしたって、はいはいなんて、笑う。悔しい。だって、いつか、いなくなるんでしょ。 なんて絶対に言ってやらない、言ってしまえばやっぱり、ってなる日が来る。 言わなければ、そんなの全然言わなかったじゃんか、って文句言えるから。 いつか全部嘘になってしまうなら、今はこの温もりを、隣にぴたりと寄り添う温もりを、 銀さんの人生でこの上ないくらい記憶に残るように、奪うみたいに共有してやるんだ。 もし、もし消えてしまう日が来るなら、いつか隣に座ってた奴がいたと思い出してくれますように。 その時少しだけでも、あったかくて優しい思い出がありますように。 うそつき、と突いた横腹が少しだけ柔らかくて、やっぱりかたかった。