がらす

ぴーんと指で弾いてしまえば、かーんと綺麗な音が響く。 あっと落としてしまえば一瞬のうちに砕け散る。 心そのものみたいだ、と思った。 汗をかいたグラスをくるくる回しながら、ちりんと鳴る風鈴の音で涼んでいた。 からんと音を立てて氷が溶けて、アイスコーヒーがまた少し薄くなった。 仕事場から持ち帰ってきた山積みの書類に嫌気がさしてこうして寝転んでから何分経っただろうか。 やる気と言うものはまるであらわれないし、むしろ微かにあったそれがなくなって行く一方だ。 ガラスのコップを割るみたいに、簡単に壊してしまえたらいいのに。 この山を崩してしまえたならどんなに嬉しいだろう。 あー困った、とたいして困った声色も作らずにつぶやいた。 からん、と氷がまた音を立てるのと同時にドアの鍵が開けられる音がした。 わたし以外にわたしの家の鍵を持っているのは一人。 何も用意する気が起きないな、どうしよう。 どうしようとは思っても体を起こすことさえしないのだけど。 がさがさという音を立てながら入ってきた人は声もかけずに冷蔵庫へ向かったらしい。 いちご牛乳がねェだとかつーかなんもねェだとか好き放題文句を言って、 やっと寝転ぶわたしの顔の上にスーパーの袋を差し出した。 なぁに、アイス買ってきた、あらありがとう。 練乳いちごアイス、というなんとも甘そうなアイスを渡してくれた。 冷たくてすこし気分がスッキリする。開けようとしたら、あァそうだ、ともう一つ袋から取り出した。 この前割っちまっただろ?そう言って、この人にしては随分センスのいい綺麗な、硝子のコップを。