きょうおん

好きだと言ったら、どうする? 独り言のように小さな声で聞いたわたしを、彼は目を見開いて見た。 考えるそぶりをしつつ、頭をぼりぼりと掻いている。 あー、とか、あ゛ーとか言う顔には面倒臭そうな色が浮かんでいた。 明確な答えや返事を期待しての問いではなかった。 そのことに気づいているのか否か、恐らく後者だろうが、 ごほん、と一つ咳払いをして真面目な顔になった。 そのあとは、彼の口が動くのをただ見ていた。 口元しか見られなかったのは,一度だけちらりと見上げた瞳がどうにも真っ直ぐで、とても見ていられなかったから。 時折言葉を濁らせて、つまらせて、それでも丁寧に大切に伝えようとしてくれている。 そうしてようやく、自分がバカな質問をしたのだと気づいた。 ひととおり話し終えたらしく口を閉じた銀時に、ごめんね、とまた小さく言う。 片眉を釣り上げた彼が言うことには、話きいてなかったってんなら三分の四殺しだ、そうだ。 それじゃ殺されたその先にいっちゃうよ、なんて思っただけで言わない。 実際、話はまともに聞いてなかった。 それでもひとつだけちゃんと残ったのは、言ったかどうかもわからない、俺も好きだとか、そんなセリフじゃなく。 (足音だけで、お前だってわかるっつーんだよ) そう言った。照れたように、怒ったように、口元を歪めながら、言ってくれたのだ。