くらやみ
街灯がちかちかと頼りなく点滅している。
普段から人通りの少ないこの辺りは、星が瞬く頃には誰一人通らない。
だからこそこうやってゆっくり星を眺めながら帰ることができる。
いつだったか、気をつけろよ、と無愛想に言われたっけ。
はいはい、と適当に流してみせたが、いつだって、そりゃあちょっとは怖い気持ちがある。
正面から人がきても驚く自信がある。
それほど、本当にここは人どころか猫でさえ通らないところだから。
今日は月が陰ってしまった。
星も一等星くらいしか見えないし早めに帰ろう。
そう思って早足になった。
おかしい、と思ったのはそのすぐあとだ。
どうにも後ろから微かながら音が聞こえる。
猫や狸ならいいのだけどもしそれ以外だったら、
もし、もしも狂気の類を持っている人であったら。
どんどん早足になる、どんどん、近づいてくる気がする。
明るい通りへ出る角まで走った、後ろから追いかけてくる音が聞こえた。
角を曲がってすぐ息をひそめて待った。動悸が激しい、息を整えないと。
静かに身をひそめていると、ぜーはーという呼吸が聞こえた。
それはなんとなく、聞いたことのあるような。
その髪色を、ほんの一瞬見ただけで、へたりと座り込んだ。
なんだ、と息を吐いて膝を抱える。
なんだじゃねェよ、気をつけろって言ったろうが。
かなり鋭い語気で言葉が降ってくる。
それでも、どうしてもくすくす笑ってしまった。
ちくしょう、お前、俺だってな、
その後に続いた言葉に、素直に謝ってしまった。
そんな姿を見てぺしっと頭をはたかれた。
だって、そんな、狡いじゃない。
(お前がいなくなりそうで怖かった)
可愛いと言ったら、また怒るかしら。