えんぜん
どこまで行っても終わりがなく、いつまでもどこまでも墜ちていった。
どん底を目指してみたはいいけれどいつまでたっても底につかない。
暗闇の中を奥へ奥へ進んで隠れてしまおうとしたけれど、いつまでたっても行き止まりがない。
諦めた頃には随分と距離が出来て、上を見てもなにもわからない。
あまりにもまぶしく、あまりにも遠く、あまりにも寂しい。
なにもなくて不安で、この手に何かを掴みたかった。
失ってきた自分にも何かがあるのだと、掴めるもの、確かなものがあるのだと信じたかった。
そんな考えだから失うのだと気づかずに。
すやすや寝ているのか狸寝入りか、何にせよ幸せそうな顔でソファに寝転ぶ彼の手はあったかかった。
背中は広く、腕は逞しく、死んだ目はときどき酷く優しくなる。
目が覚めたら散歩にでも誘って、帰りになにか甘いものを買おうか。
夕焼けを追いかけて歩いて、手を繋いで、ぽつりぽつりと話して、
私にはこんなものがあったんだと、あなたにはこんなものがあるんだと話したい。
そうか、と笑って聞いてくれるだろうし、繋いだままの手はきっとあたたかいんだろう。
水たまりで転んだ少年に駆け寄って泥を払っていたら、ゆっくり近寄ってきて頭を撫でた彼。
泣かないように顔をしかめていた少年は、それだけでぽろぽろと涙をこぼした。
痛い、と素直に泣く少年につられて私もなぜだか泣いてしまって笑われたけれど、
少年にしたそれよりずっともっと雑に頭を撫でてくれた。
ぐしゃぐしゃになった髪の毛を手で直しながら追いかけた背中は、やはり広く。
夕陽を浴びた銀髪は輝いて、まぶしくて、でも手をのばせば届くほど近くて、あまりにも愛おしかった。