さかみち
がさがさと買い物袋を騒がせながら、いつもの坂道にさしかかった。
ほぼ毎日通っているとはいえ慣れることのない坂道。
慣れるどころか日々つらくなっている気がする。
まずはあの電柱まで、と心を決めて重たい足を踏み出した。
じりじりと照らす太陽は、傾いているとはいえ、
じわじわ体力を奪ってくることに変わりはない。
ふぅ、一息ついて目標の電柱のそばで立ち止まる。
今日は日中に街へ出てたくさん人と関わったから疲れてるのだろうか。
そんなことを思い返すと、坂の上がどうにも遠く思えてしまった。
仕方ない、と割り切って足を動かし頭を上げた。
幻影、だ。
坂の上に、いわばゴールに立ち尽くす影を見て思った。
すっかり傾いて地平線に沈もうとしている太陽が、確かに照らすのはどうにも見覚えのあるシルエット。
だって、迎えにきてくれるはずがない。そんなことはありえない。
そう思って、ちらりと後ろを振り返って、周りも見渡して見た。
とうとう見つけたのはニャアと鳴いた猫一匹だけ、だった。
へばってふらふら歩く姿は、こちらが向こうを見るよりずっとはっきり見えてるはずなのに
その影はなにも言わないで、立ち尽くしている。
表情なんて見えやしないけど、きっと気だるげな顔だろうなと容易に想像できた。
どうにか坂の上へたどり着くと、見慣れたブーツが目に入った。
少し乱れた息を整えて顔をあげる。
その視線は重たい買い物袋へ向けられていた。
何かを言おうと口を開けると同時に、お疲れさん、と聞こえた。
聞こえたと思えばもう、くたびれた手からは袋がなくなっていて
電柱の次の目標だった影はすたすたと前を歩いていた。
言いたかったことは忘れてしまった。
幻影じゃなかった、
ぽつりと零した言葉が届いたかどうかはわからないけれど、珍しいことは案外続いて起こるものだ、
ばーか、と優しく笑う声が聞こえた。