ドン。という効果音に最近の女の子はときめくらしい。 昨日見たテレビの特集で、今の女子中高生の間で壁ドンなるものがブームらしい、と知った。 少女漫画によくありがちだと言っていたが生憎読んだことのある漫画などコンビニで立ち読みできるものである。 たとえばこの家のそこらじゅうに散乱しているジャンプ。 だからいまいちドン、という状況も音もなんら私をそそるものはない。 強いて言うならあの有名な海賊漫画において主人公たちがさらわれた仲間を助けに現れ反逆開始!となったときであろうか。 それならばゾクゾクするし、ようしここからだ、いけいけおせおせと気分も盛り上がってくる。のだが。 ドン、と私の目の前におかれたのは少女漫画でもジャンプでも助けに来てくれた仲間でもなく、一升瓶であった。
「私まだお酒飲めませんけど」
初めてあった時に素姓を述べたはずだ。十九歳無職、家なしであると。 そんないたいけな少女、というには危うい私に向かってあろうことか酒瓶をつきつけるなんて。 せっかく海賊王になる仲間の登場を待ち望んで心を躍らせていたというのに。 未成年はお酒を飲んじゃいけないんだぞ。
「知ってんだぞおめーが飲んだこと大有りってのは」
なんてこった。
「誰情報で?」
「公園のおっさん」
おっさんの名前を叫びたくなった。もちろん知らないからできなかった。
「あれはおっさんがすすめるから…はぁ…」
「すすめられたら飲むんだろ、ほらのめ」
無理やり持たされた猪口に並々と注がれ、覗き込むと複雑な面持ちの自分が映った。 どうして少女漫画のことを考えていたのにこんなことになっているのか。 別にお酒は嫌いじゃない。嫌いじゃないけども。
「あーあ犯罪ですよーおまわりさーん」
苦し紛れに天井を仰ぐとくつくつと笑い声が聞こえる。
「やめろやめろ、ろくな奴いねーから」
「銀さんよりはマシじゃないですかね」
「それはお前の希望なの?本音なの?」
「希望ですけど」
「じゃあ諦めろ」
「やっぱり?」
「ほらのめのめ」
「はいはい…」
あぁそういえば、あの勇敢な海賊たちも若いのにお酒を飲んでいたっけ。それならまぁ、いっか。 なんて私がうまく理由を見つけたころ、何度も並々と注がれる猪口を先に転がしたのはベロベロに酔いつぶれた銀さんだった。 …というお話は、また次の機会に。