「銀さん、さむい」
「冬だからな」
「冬きらい」
「きらいっつっても冬は冬だ、諦めろ」
「銀さん、ちょっと」
「あ?なに」
「手貸してください」
「?」
「カイロ」
「……つめてっ!人間カイロってことかよ」
「あったか〜い」
「やーめろ離せ、せっかくあっためた熱を自販機みたいなセリフで奪うんじゃありません」
「ケチ…」
「ケチじゃねーわもっとあったかい格好してから言え。お前この前あげたろ、お下がり」
「…あげちゃった」
「ハァ?!あのオンボロを!?」
「オンボロだって自覚しててわたしにくれたんだ……」
「…今はそんな話はいい、誰にあげたんだよ」
「……と、ともだち」
「嘘つけ」
「間髪入れずに……ひどい…」
「お前に友達がいてたまるか」
「たしかにいないけど…もう少しこう…」
「万年引きこもりがよく言うわ」
「銀さんに言われたくないです」
「俺ァ仕事を今か今かと待ってんだ。ってンな話はどーーでもいいんだよ、誰だ。誰にあげた」
「…み、道端の……おんなのこ…」
「…は?」
「寒そうにしてたから、あげる、って言って渡したの」
「で、その子はなんなの」
「迷子だったみたいで、その後すぐお母さんが迎えに来てました」
「あっ、そ…」
「すごい呆れた顔されてる…」
「たりめーだアホ」



俺が呆れ切ってため息をつくとはテーブルに突っ伏した。このあほんだらに着せる服をまた探さなきゃならねェなとぼんやり思いふけっていると、ぽつり、声が聞こえる。


「……いいなぁ」
「?なにが」
「…なんでもないですよ」
「なんだよ気になんだろーが、言え」
「…………お母さんが、迎えに来て、いいなぁって」


わたし、お母さん、知らないから。


橋の下にうずくまって、これでもかと存在を縮こめていたこいつのことを、―――ああ、あの時も、たしかこんな寒い日だったか―――ふと思い出して、息が吸いづらくなったのを感じた。
うまい言葉とっさに出てこず、行き場のない思いを手に込めて頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。


「う、なにすんですか」
「出かける準備しろ」
「?なんで、」
「服買いに行くぞ」
「…銀さん今月仕事ないんでしょ、節約してください」
「うるせェお前用の口座は別にあるわ、さっさとしねーと置いてくぞ」
「…ぎんさん、」
「なんだよ、早く、」


準備しろ、と言いかけて言葉を失った。立ち上がって背を向けていた俺の背中に、衝撃とともに突然温もりが重なったからだ。
腹のあたりに細い腕が回されたのを確認して、本日何度目かわからないため息を吐き出した。呼吸はいつの間にかしやすくなっている。


「だいすき」
「知ってる、早くしろ」


俺は言い損ねた言葉を口から出すと、冷えた細腕をぺちぺちと叩いて急かした。
知ってるだなんてよく言えたもんだな、この口も。寒かった身体がほんの少し温度を上げた気がして、やりきれぬ思いに頭をかいた。