の笑顔も、泣き顔も、見送りのときのなんとも言えぬ表情も
一時だって忘れたことはなかった。
忘れてはならないと、そう思った。
いつでもその手はあたたかくて。
涙が出るほど、優しくて。
肩を組んで大笑いすることも、酒を飲み交わすこともできた。
だが、手を伸ばせばいつだって届く距離まで忍び寄っては
その華奢な体を抱きしめることはせず、逃げ出してばかり。
触れてしまったら、その温もりから逃れる術などないと、
頭の何処かでわかっていたからだ。
近寄るだけで、精一杯だった。
仄かに香る甘い匂いもくすりと小さく零す笑みも、血にまみれた細い指先でさえ
荒んだ心を治し冷えた心を温めるすべてだった。
辰馬、
そう自分を呼んでくれた声が、
逃げ出したくなる時いつも聞こえた。
、
と。そう呼べたなら。
その名前をこの世の誰よりも愛おしく紡いで、
その小さな体を抱きしめられたなら。
何度、夢を見たことだろう。
君の隣で、幸せそうに笑ってる横顔を見つめて、手を握って
時々頭を撫でてやって、また子供扱いされた、といじけて突き出す唇にキスを落として。
「――ひさびさの地球じゃの」
無感情に聞こえた陸奥の声にはっと我に帰った。
どうやら長い間考え込んでいたようだ、視界いっぱいに懐かしい景色が広がっていた。
いつも地球へ帰るときには必ず零す説教が今回ないのは
彼女も人だという証拠であろうか、
こんなことをいったらまた宇宙の果てまで飛ばされてしまうのだろうが。
ちらりとも隣に立つ彼女を見ずに、ただ懐かしい青空に目を細めた。
彼女はまるでそんな自分には興味を示さずに
ただ、さきほどよりは幾分か温もりの宿った声で、短くこう告げた。
「気が済んだら、帰ってこい」
あぁ、と返事する代わりに、ひらりとひさびさの地球へと飛び降りた。
お前は無力だと神が嗤った
「――おう、ひさしぶりじゃねえの」
「なぁ、銀時。わしゃァ、を幸せにできてたかの」
「・・・なに過去形にしてんだてめーは。今までなんざ俺ァ知らねェ。けどよ、これから支えてやれよ、」
俺にそう訊くくらい、不安ならよ。
ぼりぼりと頭を掻きながら去って行く旧友に、
相変わらずじゃの、と独り言を零して
さて、と彼女へ向き合った。
温もりもなにも感じさせないような病室で独り眠り続ける、愛しい人。
「――長いこと、待たせた」
長いこと、逃げ続けたしのう。
が目を覚ましたら、邪魔くさい、そう文句を言うくらい
だけど、照れ臭そうに笑ってくれるくらい
大きな大きな花束をもってきたんじゃ。
(だから目を覚ましてはくれないか)(愛してる、と、そう紡ぎたいのに)
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