「わたし、〈人間屋〉で、売られて、買われて、気付いたら、あの船にいたの」

眉を下げてしょんぼりした空気を隠すことなく言う少女の名は。つい先日、ろくでもねェ海賊船から奪った大切な存在だ。

「耳馴染みのねえショップだな」
「馴染みたくもねェ」
「…それで、あのひとたちが、お前は奴隷だから言うことを聞けって」

聞かなきゃ殺すって。言われたの。
震える睫毛の長さに見惚れていたらベックマンに頭を叩かれた。こいつは読心術でも持ってるんじゃねぇかな。
その隙にはルウのやつに抱きしめられている。満更でもなさそうに笑う
…ルウのやつ役得だな、体がでかいからって。

「わァった、そこまででいい。嫌なこと思い出させちまって悪かった」
「…うん、やなことだった…だけど、今はすごく、たのしいよ」

ルウに抱きしめられながら顔をくしゃりとしては笑った。なんだこれが天使か。

、いいかよく聞け。この頭が赤いおじさんは変態なんだ。あまり近づくなよ」
「おいベックマンなにを」
「それからとても酒癖が悪いから夜は絶対にこの人の部屋に入るな、食われるぞ!」
「ヤソップお前まで」

いい加減にしろ!と怒鳴って立ち上がると、ケラケラとは笑った。
最初こそ大声やふざけて怒る声にもビクビクしていただが、 ここ最近は慣れたのか楽しそうに笑っている。
いいか、いつかそれが失礼だと教えてやるからな。

「でもシャンクスやさしいよ」
「……お頭、餌付けしたのか」
「してねェよ!どんだけ信頼ねェんだいい加減へこむぞ!!」

この世の終わりみたいな顔をして俺を軽蔑した目で見下してくる野郎共に反論している間にも笑っている。
俺という人間が誤解されてなきゃ良いんだが、くすくすとかケラケラとか、はいろんな笑い方をする。
それが本当に楽しいのかどうかはこの短期間じゃあわからないが、そうであって欲しいとは心から思う。

「お日様みたいだったよ」
「んー?」
「私、あんまりお日様見た事なかったけど、シャンクスは、お日様みたいっておもった」

小さい頃から外に出る事は少なかったと言う。顔を歪めるのを見てそれ以上詮索するのは止めにしたが、 そもそも売りに出される様な生い立ちに波乱がないはずがない。
昔はもっと嫌な事もあった、とぎゅうっと身を縮めた彼女の頭を撫でながら話を聞いていた。
そんなにとって、俺はどうやらあのお天道さんになれたらしい。この上ない褒め言葉だ。

「あの船にいて、晴れてる日もきっとあったけど、毎日くもりみたいだったの」
…」
「だからシャンクスやみんなにあえていま、本当に、しあわせ」

大きな目と口が弧を描いて、どちらかといえば綺麗な顔立ちが途端に可愛く、くしゃりと歪められた。
つられて俺たちがふにゃりと情けない顔になったのは言うまでもない。

「…なァ、
「なあに?」
「次の島でお前の服を買いに行こう、なんでも好きなモンを選ぶと良い」
「あァ、お頭が酒我慢して買ってくれるってよ」
「バカヤロウ割り勘だてめェら!」
「ちっせー!お頭ちっせェ!」

ここ最近の俺へのお前らの態度は割り勘に値する。幸いの乗らされていた船は、案外宝石を持っていた。
それを酒代にまわせば良いだろう。
その宝石の量にこの子を買ったというのも納得がいったが、この金品も一体どうやって手に入れたもんだかたかが知れている。
海賊が海賊のやり方に文句言うなんてそれこそばからしいが。


「…あのね、」
「んん?なんだ、何が良い?」
「…赤い、服が良い」
「赤ァ?」
「うん、」

シャンクスと、同じ色。
あの日と同じように、にへら、と笑ってそう言うを抱きしめない奴は人間じゃないと俺は思った。
小さな体はすっぽり俺の腕の中に収まって、楽しそうに、くるしいよ、なんて笑ってる。
他の野郎共から暴言の嵐が起きたが知ったこっちゃねェな、ぎゅう、と腕に力を込めると、 小さな手が背中に回されるのに気付いてしまったのだから。



は沈んだ





つづくかもしれない