「・!前へ!」
凛とした表情で彼女はその椅子へ座った。
帽子を頭に乗せてから長い間が空いた。
どれくらい経った頃だったか、帽子は大きくその声を待ちわびた広間に響き渡らせた。
「グリフィンドーーーール!!!」
一瞬の間があいて、その名を呼ばれた寮のテーブルは大きな声を上げて喜んだが、他のテーブルではどよめき、ざわついている。
驚く者、疑問を投げかけつつ喜ぶ者、さまざまな生徒が彼女を迎え入れた。
家と言えばスリザリンとレイブンクローしか出していないことで有名な名家だ。
完全なる純血主義というわけではないらしいが、優秀な人間しかいないとも言われている。
本当に落ちぶれた人間の一人でもいないのかと俺の家の誰かが噂してたが、大して興味もなくそれ以上は聞かなかった。
その、家の、末っ子だという・。ついに彼女はその禁忌(なのかは知らないが)を破ったらしい。
優秀か否かはまだ当然不明、彼女の家でこの事態が許されるか否かすらも不明だ。
不安や恐れに肩を落とすのだろうか、失望やショックにへこむのだろうか。
そのテーブルに向かう横顔をちらりと見た。
ところが、だった。
口元は美しく弧を描き、一度だけその綺麗な髪を振り払うように頭を振ってから、彼女は大きく口を開けて、笑った。
「よろしくね、リリー、リーマス!」
「また会えて何よりよ!よろしく、!」
「うん、嬉しいよ。よろしく」
知り合いだったのか、彼女は二人の男女に手を差し出して挨拶していた。
男の向かい、そして女の隣に腰を下ろし、彼女は俺に背を向ける形となった。
ようやく俺は視線を帽子の方へ向けた。どうやら、その一切の流れの隙にも組み分けは進んでいたらしい。
「シリウス・ブラック!」
俺の名が呼ばれた。願わくはあの面白いメガネのやつと同じ寮へ。そして、あの、興味深い彼女に出会う機会を。
「……グリフィンドーーーール!!!」
ニィッと笑って見せてやると同時に、さっきの歓声もさめやらぬまま、今度はドッと広間全体が湧いた。
ざまあみろ、俺は俺の行きたい寮に行ってやる。
「よォ、また会ったな」
「まさかとは思ったけど、本当に同じ寮になれるとはね!今日が僕たちの最高の記念日だ!」
なんてったって、あの子、リリー・エヴァンズって言うんだって、彼女も同じ寮だ!
最高の気分だ、これは天が僕に味方しているとしか思えないよ!
とかなんとか騒ぐこいつをおいて、俺の視線はそのエヴァンズの隣にうつっていた。
出会ったばかりだから当たり前だが、初めて見る心底嬉しそうな笑顔。
なんだ、家だっていうから構えてた俺が馬鹿みてェだ。
なんて、自分のことも棚に上げて自嘲の笑みを浮かべようとしたその時、ふと彼女の目が俺をとらえた。
しまった、じろじろ見ていたのがばれたか。
向こうも俺の名前はもう知っているだろうし、こんな始まりで印象でも悪くなったら話しかけづらい、なんて考えて頬を引きつらせた。
ところがどっこい、ジェームズの野郎、聞こえそうなほどの声で
「あの・がこっちを見てる!シリウス!知り合いなの?!」なんて騒ぐもんだから、
俺はついにへらりと笑って手を振るしかなかった。
終わった、これで騒がしくめんどくさいキザ野郎だと認識されたに違いない。
がっくり肩を落とし、俯くコンマ数秒前のことだった。
かの・は、綺麗な顔をくしゃりとして、大きな目を細めて、この上ない幸せのように、笑ったのだ!
「ジェームズ!天は俺に味方しているらしい!」
こいつの言うことはなかなか信用に足るのかもしれない。なんてことを思った、始まりの日。
Angelus!
まあ続くんじゃないでしょうか シリウスがアホな話